陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

「信濃桜の話」

柳田国男「信濃桜の話」(青空文庫)

しだれ桜のルーツは信州にあり、そのため信濃桜と呼ばれ、昔の人が、枝の垂れた形の木に霊性を感じて信仰と結びついたことで全国に広く分布したのではないか…という仮説が述べられています。
著者がどうしてこんなことを考えたかといえば、仮説の前半については、「信州にはどうもしだれ桜が多いと思っていたら、古文献のなかで、しだれ桜を信濃桜と呼んでいるのを見つけた。これはもしや…!」ということのようです。仮説の後半に関しては、しだれ栗に付随する伝承や、柳と幽霊の関係性から、連想されたようです。

文中では、信濃桜に関する記述を、下記の7文献から引用してあります。

  • 1421年(応永28年) 伏見宮家「看聞日記」
  • 1484年(文明16年) 近衛政家「後法興院記」
  • 1623年 崇伝ら「五鳳集」
  • 1685年 芭蕉七分集「冬の日」
  • 1697年 飛鳥井雅親「亜塊集」
  • 1843年 畔田翠山「古名録」
  • 19世紀半ば 勢多章甫「思ひの儘の記」

はじめの2つは、日記です。京都のお公家さんや皇室の方が、信濃桜を植えたり贈ったりしたことが記録されています。残りの5つは、歌集や随筆などです。当時、信濃桜は有名で、さまざまな文学の題材になったようです。ところが、その後、信濃桜の名前は次第に文献に見えなくなり、廃れてしまったといいます。

桜は、室町時代から品種改良が始まったそうです。もし、"信濃桜" の名称が室町以降のものなら、すでに広まっていた糸桜(しだれ桜)の1品種としてつくられたものが、珍重された可能性もあると思いました。
…ここまで来て、ふと思いついて調べてみたら、最近のDNAの研究で、しだれ桜には複数の起源があることが、明らかにされたそうです。2011年のことです。割と最近ですね。DNAは凄いです…。
そうなってくると、やはり、信濃桜はしだれ桜の1品種だったのでしょうか。新しい品種に押されて、廃れてしまったのでしょうか?

さて、もっと古い情報がないかと思い、インターネットを検索してみたところ、面白い記事を見つけました。内容は、樹齢1000年とも言われる、福島県三春滝桜に関するものです。記事によれば、この桜は、県内にエドヒガン(三春滝桜はエドヒガン系のベニシダレという品種だそうです)の自生地がないことから、人が植えたものと考えられるそうです。
他には、群馬県の白根神社境内にも、樹齢1000年のしだれ桜があるようです。こちらも、人が植えたものなのでしょうか。それとも、桜のあったところに神社を建てたのでしょうか…。
いずれにせよ、随分昔からしだれ桜は愛されてきたのですね。霊性を感じて…というところは、本当なのかもしれません。何だかロマンティックです。