陽だまり日記

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陽だまり日記

大好きな本や映画のことなど

「かぐや姫の物語」(2013、日本)

高畑勲監督の「かぐや姫の物語」(2013、日本)は、夢のように綺麗な映画でした。四季の草花はどれも鮮やかで、懐かしい思いでいっぱいになりました。ラストで、月の使者がお迎えに来るところは、音楽がとても可愛らしく、思わず一緒に行きたくなりました♪
2時間を超える大作でしたが、話の展開が面白く、全く飽きずに最後まで見ることができました。

見終わって、すぐ、西洋の眠り姫(茨姫)を思い出しました。錘が刺さって眠りについてしまう眠り姫と、帝に襲われそうになって月に帰ってしまうかぐや姫は、よく似ているように思えたからです。
一体、この姫達は、なぜ "たったそれだけのことで" 長い眠りについてしまったり、月に帰ってしまったりして、 "この世から姿を消してしまう" のでしょう。お話のなかでは、魔女の呪いや、前世の行いなど、それぞれの文化圏に合わせた物語的な理由が用意されています。
でも、本質的には、少女が大人の女になることの難しさを語っていると思います。

本作の面白さは、 かぐや姫は山のなかで暮し続けていれば、月に帰らなくて済んだ(=大人へのハードルを飛び越えられた)というストーリーにあります。
ここでは、人が自然から離れて生活することの危険性が、描かれていると思いました。

人々が都市で密集して生活するには、自然の掟だけでは不十分で、特別なルールが沢山必要です。そしてこの両者は、互いに相容れないことが多々あります。
たとえば、山の中では、村人が育てている瓜を(動物や人が)少々貰ったり、野生の雉を捕まえたりするのは日常です。でも、都では、何でも所有者がはっきり決められていて、盗みは厳しく罰せられなければなりません。捨丸という同じキャラクターが、同じような行動をしても、その結果は山と都とで正反対で、一方ではヒーローとして尊敬されるのに対し、他方ではならず者の盗人として惨めに踏みつけられてしまいます。この場面では、自然の掟と、都市における集団生活のルールの対比が見事に描かれていると思いました。

上に述べた都市のルールは、人々がスムーズに暮らせるよう整備された文明の証ですが、人はもともと自然の存在ですから、これに疑問を持ったり、適応できなかったりすることもあります。
翁は、この点で、とても適応力の豊かな人物として描かれていました。これも、かぐや姫とよい対比になっていました。媼はちょうど彼らの中間です。

山から都へ移ったかぐや姫は、こうした価値観の転換に心がついていかず、何よりも、『真心』のきわめて乏しい都の生活に耐えられなくなってしまいます。

さらに、人の自然な営みが多くの部分で奪われ、覆い隠されている都において、男性が美しい女性を求めることだけは、驚くほど大っぴらなところも、かぐや姫には大きなショックだったと思います。少女にとっては悪夢のような歪な世界で、月に帰ってしまうのも当然と思えます。
かぐや姫のこうした反応を、若い女の子の感傷だとか、10代の感受性は特に鋭敏だから、と見る意見もあるかもしれません。でも、社会(集団)の価値観に振り回され、その中で自分の価値が下がってしまうという状況には、人は意外に脆いものです。その意味では、性別や年齢をこえた普遍的な現実を反映していると思いました。


ところで、都市生活者の自然からの乖離とそれによる弊害は、多くの人が今まさに実感していることと思います。
昔話研究者・小澤俊夫さんのラジオ「昔話へのご招待」では、しばしば、昔話が道徳的でないことを、どう考えるべきかという話題が出てきます。昔話の主人公は常に自然の掟に従って行動しますが、そのような言動は現代の道徳観に照らすと不道徳(狡猾、残酷…)とも考えられるため、子供にそのまま伝えてよいかどうか、議論になることがあるそうです。
たとえば、私も大好きだった絵本「3匹のやぎのがらがらどん」は、小さい山羊が、後から来るお兄さんの山羊を頼って、恐ろしいトロルから逃れるのは狡猾なので、子供に読んで聞かせるには適さないのでは…と、いう見方があるといいます。全く思いもよらないことで衝撃を受けましたが、こうした流れがあることも恐らく事実なのでしょう。
勿論、この問題に対する小澤氏の主張は、いつでも、昔話に登場する人や動物の、自然の生命力を全力で肯定するものです。つまり、昔話の伝えるメッセージとしては、何としても生き延びることが肝心であって、そのために物語の登場人物が少々(悪)知恵を使ったり、自分を殺そうとした敵に対して残酷にふるまうのは当然ということです。この解説には、いつも心が休まります。同時に、現代社会が以前よりも息苦しくなってきているように思えて、これから先どうなっていくのか、不安に感じることもあります。

さて、長くなってしまいましたが、本作は、誰もが知っている物語を題材に、今まさに危機に瀕している自然の美しさを芸術的なアニメーションで表現するとともに、文明に頼るあまり自然から離れていこうとする現代社会への警鐘まで織り込んだ、素晴らしい大作だと思いました。