陽だまり日記

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陽だまり日記

大好きな本や映画のことなど

「日本人とは?」

岸田國士「日本人とは?」(青空文庫)

現在のこの未曾有の事態に処して、われわれはまだ政治といふものを、いくぶん人ごとのやうに考へてゐる。(略)なにがどうなつても、それは日本の政治をこれ以上わるくもしなければよくもしない、と高をくゝつてゐる。

半世紀以上前に書かれたものですが、現代にも通じるところがありそうです。
ここに書かれている『未曾有の事態』は、敗戦のことです。

本書の日本人論は、具体例がたくさんあって分かりやすく、面白く、また、とても考えさせられました。身につまされるところも多くありました。例えば、こんな感じです。

先日、私は中央線のある駅の前で、牛車を挽く男が、疲れて膝をついてゐる牛を、力まかせに丸太ん棒で殴つてゐるのを目撃した。そして、それを取り囲んでゐる人々の誰ひとり、これをどうすることもできないでゐるのである。それよりもつと驚くべき例をあげると、最近、新聞に出てゐたことであるが、電車の中で警官がスリをみつけてつかまへようとしたところ、そのスリが大あばれにあばれて警官に傷を負はせるに至つたのだが、それを乗客のすべてが見物してゐてだれも手をかさうとしなかつたといふことである。
禁煙の場所で、ちよいちよい煙草をふかしてゐる男を近頃みかける。群集の視線は明らかにその男の傍若無人をなじつてゐるのだけれども、それだけではなんの効き目もない。
念のために断つておくが、私は、今こゝで、牛を殴る男や暴力をふるふスリや煙草をすふ男を問題にしてゐるのではない。その周囲の人々を問題にしてゐるのである。つまり、それらの人々の同様に「惨めなすがた」を問題にしてゐるのである。「人間らしさ」といふことを、かういふ面から見ていくことは誤りであらうか?

著者は、女優の岸田今日子さんのお父さんで、劇作家をしていた方だそうです。鋭い観察力は、そのためでしょうか。