陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

ティツィアーノ・スカルパ「スターバト・マーテル」

スターバト・マーテル

スターバト・マーテル

スターバト・マーテル」はラテン語で、母は立っていた、という意味だそうです。
本作は、「四季」で有名な作曲家ヴィヴァルディの生涯から着想を得たフィクションです。

舞台は18世紀、イタリアはヴェネツィアの、ピエタ養育院(孤児院)です。
そこで暮らす孤児達は、大人になって生計を立てていけるよう、幼い頃から各人の才能に応じた仕事を仕込まれます。
主人公は、傑出した音楽の才能を持つ16歳の少女チェチリアです。彼女はバイオリン奏者です。

ストーリーは、チェチリアの独白で進行していきます。1つの段落が短く、文章に勢いがあって、読みやすいです。その中で、死と出産、孤独と愛、言葉と音楽、等々について、深い洞察があり、考えさせられることが沢山ありました。冒頭を少しだけ引用します。

数々の苦い思いが波のように押し寄せてきて、胸が締めつけられます。だいじなのは、すぐにそれだと気づいて反発すること。それがわたしの心をすっかりとらえてしまわないよう、時間を与えないこと。波は瞬く間に大きくなってすべてを覆ってしまう。黒くて毒を含んだ液体。瀕死の魚たちが水面に浮かびあがり、口を大きく開けてもがいている。ほら、もう一匹。口をぱくぱくさせて浮かびあがり、死んでいく。その魚がわたし。(p.3)

閉鎖的な生活空間の中で、チェチリアの才能は研ぎ澄まされていきます。でも、同時に、その特殊な環境や、自分の生まれのことが、大人への端境期を迎えた彼女をひどく苦しめ、ついには『死』との対話に耽るようになります。
そんな彼女に変化を促すのが、物語の中盤で登場する、アントニオ神父(ヴィヴァルディ)です。…

終盤は少し展開が急なようにも感じましたが、全体的には、簡潔な文章で、重い内容の中にも光があり、強く印象に残る1冊でした。