陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

「バグダッド・カフェ」(1987、西ドイツ)

パーシー・アドロン監督の「バグダッド・カフェ」は、どの1シーンを切り取っても色彩が美しいことが、印象に残りました。互いに引き立て合う色を、絶妙に組み合わせてあります。
もう30年くらい前の映画なのに古い感じがしなかったのは、そのためでしょうか。今でもとってもオシャレだと思いました♪

ジャスミンは何だか、サリンジャーの小説「ゾーイー」に出てくる『太っちょのオバサマ』(=イエス・キリストの化身)を思い出させます。
キリストというより聖母マリアかもしれません。少なくとも画家にはそう見えていたようです。男の子がピアノで彼女にきかせる曲も「アヴェ・マリア」でした。

終盤、ジャスミンが居なくなってしまい主題歌「Calling you」が流れるシーンは、魂に訴えかけてくるようで、何とも言えない良さがありました。この映画はこの場面のために作られたもので、喪失感が主題なのかな?とも思いました。
ブレンダをはじめとするカフェの面々が失ったのは、ジャスミンが象徴していた、信頼、良心、親切心、ちょっとした奇跡です。これらは、信仰と言い換えることができるのかもしれません。
(私は、多くの日本人同様、日本古来の多神教をゆるやかに信じていると思いますが、特定の宗教を強く信じているわけではないので、信仰について的外れなことを書いているかもしれません。)

物語のはじめの方で、ブレンダが日々の生活に疲れ果てて、とにかくイライラしているときには、彼女は何が問題なのかも分からなくて、ただ悲しくて泣いていました。
でも、ジャスミンと出会ったことで、問題とその解決法が実体化します。彼女がいなくなると魔法は消えてしまいますが、ブレンダはもう泣かず、ただジャスミンを求めます。
ブレンダの夫が、家を出て行った後に双眼鏡で彼女を見守るシーンが何度かありますが、これはブレンダ自身の潜在意識だと思いました。

ジャスミンが消えて終わりでも良かった(ような気がする)ところを、敢えて(?)ほぼ大団円としたのは、ファンタジーっぽくて楽しいラストでした。ファミリーから1人脱落したのは、こういう、救世主の存在するコミュニティが全てではないことを表現していたような気がします。

ひととおり最後まで見た後、再度、物語初めの「Calling you」が流れる場面を見ると、この歌はブレンダがジャスミンを呼ぶ声のように感じました。

ところで、本作の鮮やかな色彩とジャスミンが現れるまでのカフェの様子は、黒澤明監督の「どですかでん」(1970、日本)と似ていると思います。次の記事に少しこの映画のことを書きます。