陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

「端午節」

阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)

阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)

魯迅「端午節」(青空文庫)
『大差ない』(井上紅梅訳)、『似たり寄ったり』(竹内好訳)。本作の主人公の人生訓です。どういうことなのか、具体例を、文中から引用します。

兵隊が車夫を擲(なぐ)ると以前はむっとしたが、もしこの車夫が兵隊になり、兵隊が車夫になったら大概こんなもんだろうと、そう思うともう何の気掛りもなかった。(井上紅梅訳)

人の振舞いは立場によって作られるもの、という指摘だと思いますが…、私も、主人公同様、この言葉に取りつかれてしまったかもしれません。ふとした拍子に思い浮かびます。

『似たり寄ったり』のことを考えていたら、映画「es」を思い出しました。この映画は、男達が、囚人役と看守役にわかれて、役を演じ続けるとどうなるか…という、実際に行われた心理実験がもとになっています。

es[エス] [DVD]

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なぜこんなことが行われたかと言えば、ナチス・ドイツに加担した人々の心理を明らかにするためです。ナチスの残忍な所業は、単に "空気" に逆らわないだけの、"普通の" 人々に支えられていたことが、戦後になって分かったので、これを実証しようとしたのです。
上の説が、ハンナ・アーレント氏の「イェルサレムのアイヒマン」で初めて提唱されたときは、かなり物議を醸したそうです。でも、ナチス台頭のずっと前に、魯迅が言及していたのですね。
イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告

イェルサレムのアイヒマン――悪の陳腐さについての報告

(「イェルサレムのアイヒマン」に関する映画「ハンナ・アーレント」は、以前このブログで簡単に紹介しました。)