陽だまり日記

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陽だまり日記

大好きな本や映画のことなど

「白夜を旅する人々」

白夜を旅する人々 (新潮文庫)

白夜を旅する人々 (新潮文庫)

三浦哲郎さんの「白夜を旅する人々」を読みました。
作者は6人兄弟の末っ子ですが、姉2人、兄2人を、自殺や失踪で失っています。本作はこの家族内の「嵐」をテーマにした自伝小説です。

暗く重いテーマではありますが、悪夢を見そうな感じではありません。淡々としていて、昭和初期の雰囲気が伝わってきます。読んで良かったと思う1冊でした。

舞台は、昭和初期の東北です。作者の兄、姉達が揃って自ら姿を消したのは、彼らが共有していた病気の遺伝子が深く関わっています。
6人兄弟のうち女子2人が、先天性色素欠乏症でした。亡くなった、あるいは失踪した4人のうち3人は、この病気を発症していませんでしたが、遺伝病の重みに耐えかねて、将来に希望を持ち生き続けることができなくなってしまったようです。

最初に自殺した2番目の姉が追い詰められるシーンは迫力がありました。彼女は健康で、頭脳明晰だったのに、1つ歯車が狂うと、途端に何もかもが連鎖的に死を指し示すようになり、他の選択ができなくなってしまいます。芥川竜之介の「歯車」を思い出しました。

ただ、少し不思議だったのは、彼らは、家が比較的裕福で経済的に全く不自由していないし、学校教育も、家庭内での教育も愛情も十分に受けて育った良識ある人々なのにもかかわらず、そのような選択をしてしまったことです。遺伝病の因子は、4人の若者を押し潰してしまうような圧力になりうるのでしょうか。

白く生まれついた2人は、起きてすぐ眉を描きます。月に1度、鍵を掛けた浴室で髪を黒く染めます。普通の結婚や就職は最初から諦めて、弱視なので琴の修業をしています。人一倍目立つので、それを隠すために日々努力して、「生きているような、いないような」状態を保ち、一般社会から隔離されるようにして暮らしています。
それぞれの個人は、事情に関わらず、所属している共同体の平穏を乱さないよう、最大限の努力をすることが求められているようです。

長男の婚約者、苗が亡くなる経緯にも、同じような理不尽さを感じました。彼女は結婚前に妊娠しますが、相手の家庭の事情を慮って闇で堕胎することを1人決意し、手術の失敗で亡くなってしまいます。でも、これはごく近しい人々の間だけの秘密とされ、悲しいけれども仕方ない、ある意味当然のことのように処理されます。彼女と婚約していた長男だけは苦悩に耐えきれなくなり彼もまた理由を告げず失踪してしまいますが…。
こんな窒息しそうなモラルは、100年前の遺物ではなく、形を変えて今でも生きているような気がしました。

ところで、本作には昭和8年の昭和三陸地震の話が出てきます。
驚いたことにこの時も、本震に先立って深発地震があったそうです(((( ;゚Д゚)))。311の前にも深発地震があったそうですし、念のため備蓄をチェックしなければ…と思いました。