陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

「モンスター・シークレット」

モンスター・シークレット

モンスター・シークレット

藤本ひとみ氏の「モンスター・シークレット」を読みました。
2012年出版の比較的新しい作品ですが、往年の名作「マリナシリーズ」に出てくるシャルル・ドゥ・アルディが登場します。ストーリーはナポレオンの秘宝を巡るミステリー、主人公は人生の谷間で悩むアラフォー女性、梓です。彼女が母として女として、また、職業人として、今までの選択は正しかったのか?と苦悩する姿はリアリティがあって大変考えさせられました。その一方、アルディ博士は相変わらず10代だし、歴史や政治を絡めた壮大な物語は当時のままで、昔を思い出しました(笑)。

懐かしくなって、「マリナシリーズ」の2作目の、ダ・ヴィンチの秘宝をめぐる冒険小説を、また読んでみたくなりました。記念すべきシャルルの初登場作で、シリーズの中でも特にポピュラーな作品です。

ところで、今、カトリーヌ・パンコール氏の「カメのスローワルツ」を読んでいますが、この方の小説を読んでいると、何故か作者の「花織高校シリーズ」や「マリナシリーズ」が目の前にチラついて仕方ありません。
両氏の作品は、容姿にコンプレックスをもった優しい性格の女性が自分の魅力に目覚めて劇的に成長していくストーリーや、セレブの生活を垣間見られるようなサービス精神に溢れたエピソード、物語全体を貫くドライな現実感などが似ていると思います。ひょっとすると、2人はほぼ同世代(パンコール氏が1954年生まれ(1949年生まれという説もあるようです)、藤本氏が1951年生まれ)ということも影響しているのかもしれません。
パンコール氏の作品はフランスで女性の支持を集めてベストセラーになったそうですが、藤本氏の作品も当時の少女たちに絶大な人気がありました。中でもチビで貧乏でガサツな三流マンガ家マリナが、各国のセレブな美少年たちと波乱万丈の冒険をする「マリナシリーズ」は一番人気でした。また、「花織高校シリーズ」の初期の作品(いわゆる「旧花織」)は、地味な主人公が、派手でキレイな友達に凄絶なイジメを受けながら最終的には恋人と相思相愛になるというシビアなストーリーで、好き嫌いは分かれましたがその分根強いファンがついていたと思います。下の「ロマンスパン伝説」はシリーズの1作目です。

ロマンスパン伝説 花織高校恋愛スキャンダル (コバルト文庫)

ロマンスパン伝説 花織高校恋愛スキャンダル (コバルト文庫)

改めて見ると「愛の迷宮でだきしめて!」も「ロマンスパン伝説」も1986年の出版です。しかもその間3か月しか空いていません。後の一番売れていた時期は、月刊のように文庫が出ていた頃もありましたが…、初期から筆が早かったのですね。


そんなことを思い出していると、児童文学でも一般向けの文学でもない少女小説って一体何だったのかな…と、複雑な気持ちになりました。
(ちょっと脱線しますが、あのピンク過多な装丁のせいでしょうか、私の母親などは、過激なお色気小説と勘違いしていたようです。少しは当たっていますが…(笑))
おそらく世間では少女漫画に近い扱いなのかもしれませんが、名作が文庫や電子版などで再販され読み継がれる漫画と違い、少女小説はほとんど過去の遺物のようになってしまっているのは、勿体ない気がします。

当時の少女小説は恋愛もの、歴史もの、ファンタジー系など実に多彩でしたが、私の周囲でクラスの女の子が回し読みするほど人気があったのは、藤本ひとみさんが一番でした。次が、漫画家でもあった折原みとさん。読みやすい口語の文体で、魔法や超能力などの超自然要素が少なく、ほどほどに現実感のあるストーリーが受けていたのかもしれません。
藤本作品はカセットブックやOVAなどメディアミックスもされましたが、読者の評判はイマイチでした。それは当時の技術的な問題もあったでしょうが、文章に読者の想像力をかきたてる力がありすぎたことも失敗の原因だったのではないでしょうか。そういえば少女小説の挿絵は、後期になるほど売れっ子の少女漫画家が担当することが多くなり、出版社側は相乗効果を狙ったのでしょうが、それが人気に繋がることは少なかったような気がします。あんまりキレイな絵がついていると、想像力の入る余地がなくて、興醒めしてしまったのかもしれません。逆に考えれば、文章だけで十分読者を惹き付ける魅力のある作品が沢山ありました。今はもうあまり顧みられることがなく、入手しづらくなっているのが残念です。


それから余談ですが…、今は、女性向けに男性同士の恋愛を描いた作品が多く出ているようですが、当時はそれほどメジャーではなく、"腐女子" という言葉もありませんでした。藤本ひとみ氏の少女向け小説のなかにも、その手のテイストを含むものはあまりなかったと思います。
でも、なぜか、同氏が男の子向けに書いていた小説には、バッチリ盛り込まれていました。中世フランスを舞台にした作品で、「愛の迷宮でだきしめて!」に登場する2人の美少年の祖先同士が…という設定だったと思います。後書きにはハッキリ「男の子向け」と書かれていたように記憶していますが、あれは、やっぱり女の子向けのサービスだったのでしょうか…。