陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

猿婿・へび婿の類話

毎週楽しみにしているラジオ「昔話へのご招待」で、繰り返し話題になる日本の昔話に、「猿婿」「へび婿」があります。だいたい、次のようなストーリーです。

妻訪い婚の時代の話で、蛇が意中の人間の娘の家に通いつめて娘の胎内に子種を残しますが、結局、子供は始末されてしまいます。

  • へび婿(2)<水乞い型>

人間の娘の父親が「誰でもいいから田に水を入れてくれたら、娘を嫁にやるんだが…」と言うので蛇が水を入れて、娘を嫁に貰いますが、最後は娘の智略によってあえない最期を遂げます。

  • 猿婿

人間の娘の父親が「誰でもいいから畑の草抜きをしてくれたら、娘を嫁にやるんだが…」と言うので猿が一生懸命草抜きをして、娘を嫁に貰い大事にするのに、最後は娘の智略によってあえない最期を遂げ、猿は辞世の句を詠んでこの世を去ります。

ラジオの小澤先生によれば、特に「猿婿」のお話をヨーロッパですると、西洋の学者さんたちから、猿が殺されなければいけない理由が分からないと言われて、大変な論争になるそうです。
それに対する日本人の解釈は、「猿や蛇などの動物は、仏教が入って来る前は、日本人にとって神様だった。しかし、仏教が入ってきてからは神でなく畜生になってしまった。はじめ、父親が娘を猿と結婚させようとするのは、日本古来の信仰を反映していて、後に娘が猿を殺してしまうのは、仏教伝来後の信仰を表している。」と説明されていたと思います。
上の解説に納得していたのですが、1つ前の記事に書いたように、なんとなく疑問が出てきました。
それで、最後に動物のお婿さんを殺してしまうストーリーは、日本以外にもあるのかどうか、気になってきました。

韓国
手始めにお隣の韓国のことを簡単に調べてみたら、

が見つかりました。これらは、日本の「へび婿」(三輪山型)に似た展開ですが、お婿さんは殺されて、子供は残るところが違います。(日本のへび婿・三輪山型は、お婿さんは生き残り、子供は死んでしまいます。)
面白いことに、動物を鬼に置き換えた

というのもあるそうです。これは、日本の「猿婿」や「へび婿」(水乞い型)と似ています。
ところで、上で引用した資料では、上記の "娘側を主人公にした話" と、老夫婦の間に蛙などの息子ができて長者の娘と結婚するような、"動物のお婿さん側を主人公にした話" とを一緒に論じていて、後者が主流だと述べています。韓国では娘側を主人公にした話はあまり多くないようです。

中国
中国の「へび婿」に関する情報もありました(中日昔話における異類婚姻譚の比較研究)。中国では、「蛇郎」と言われよく研究されていて、大きく分けて、

  • 蛇婿・姉妹型
  • 蛇婿・退治型
  • 蛇婿・祖先型

の3種類があり、一番メジャーなのは、「姉妹型」だそうです。これは、蛇と三女が幸せな結婚をしますが、姉達に嫉妬されて云々…というストーリーで、三女は殺されて酷い目にあうものの、蛇は殺されません。(因みに日本でも、沖永良部島奄美大島に「姉妹型」の類話があるそうです。)

まとめ
ここまでざっくりまとめるとこんな感じかと思います。
(◎多い、△まあまあ、!少ない・ほとんどない)
日本…◎退治型 !祖先型 !姉妹型
韓国…△退治型 △祖先型 !姉妹型
中国…△退治型 △祖先型 ◎姉妹型

日本でメジャーな、動物のお婿さんを殺してしまう「退治型」は、韓国や中国にもあるけれども、多くはないようでした。
日本で退治型が多い理由は、なんとなく、仏教伝来だけではないような気がしています。