陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

「へび婿」の古い形

日本に多い「動物のお婿さんを殺してしまう昔話」の、仏教伝来以前の姿を詳しく知りたいと思ったので、日本の「へび婿」の古い形を調べてみました。
8世紀、奈良時代前半成立と言われているものを、3つ見つけました。まず、古事記に出ている「三輪山伝説」。これは、ラジオ「昔話へのご招待」でも必ず引用される最も有名なものです。次に、日本書紀の「箸墓古墳の伝説」。最後に、常陸風土記の「くれふし山の蛇」。
それぞれの内容を簡単に紹介します。

イクタマヨリヒメのもとに、夜な夜な謎の男が通って来て、ヒメが妊娠します。男の正体を突き止めるために、両親が一計を案じます。結局、男は三輪山のお社に住む神様だったことが分かりました。
(どうやらこの伝説には、"蛇" という言葉が直接出てこないようです。でも、ヒメが親の入れ知恵で男の着物に麻糸を付けた針を刺しておいたところ、翌日の朝、その麻糸が鍵穴を通っていたことが、男=蛇を示しているそうです。)

ヤマトトトヒモモソヒメは、大物主と結婚します。大物主は、夜ごとヒメのもとに通ってきますが、姿を見せません。ヒメが姿を見せてくれるよう頼むと、「では明日の朝、お前の櫛笥のなかに入っておくよ。しかし驚いてはいけない」と言います。あくる朝ヒメが櫛笥のなかを覗くと、そこには小さな蛇が一匹入っていました。ヒメが驚くと、蛇は怒って三輪山方面へ飛び去り、ヒメは箸で急所を突いて死んでしまいました。

くれふし山の麓に、ヌカヒコ・ヌカヒメの兄妹が暮らしていました。ある時、ヒメのもとに、男が通って来ます。生まれたのは何と小さな蛇でした。兄妹は神の子だと思って大事にしましたがどんどん成長するので、育てきれず、親神のもとへ返そうとします。怒った蛇の子は兄を殺して天へ昇ろうとしますが、妹が投げつけた器が命中して天へ昇れなくなり、くれふし山に留まることになりました。


さて、上の3文献の成立年は、次のとおりです。
古事記  :712年?
日本書紀 :720年
常陸風土記:721年

古事記に?をつけたのは、最近、これが実は平安時代の成立ではないかという話があるからです。
上の3つのお話を読んでみると、日本書紀常陸風土記は、蛇の蛇らしい荒っぽい性格が出ているような気がします。それに比べて、古事記は "蛇らしさ" がほとんどなく、蛇というより神様というところがポイントのようです。たまたま、それぞれの文献に採録されたお話が、そうだったのかもしれません。でも、古事記のみ時代が違っていると考えても、話が通ると思いますし、個人的にはその方が面白いと思います。

そして、日本書紀風土記に収録されているお話が現在分かっている最古の「へび婿」の形だと仮定して想像してみると、昔の日本人が蛇などの動物に感じる神性というのは、恐れと表裏一体で、どちらかというと恐れの方が強かったのではないかと思いました。
そのような恐れがもともとあったので、仏教伝来により蛇や猿もただの獣ということになると、より退治されやすくなったのかもしれません。
また、一部の人々が持っていた蛇信仰を排斥したい気持ちもあったかもしれないと思いました。
だとすれば、古事記三輪山伝説のように神様だったので目出度し…という考え方は、あまり多くなかったのかも…とも、思いました。「蛇」とあからさまに言わないのも、抵抗感があったからではないでしょうか。