「すだち」(酢橘)のルーツ
もうすぐサンマの時期です。サンマといえばスダチ。その遺伝的なルーツについての覚え書きです。
1.スダチは「カボス」の異母きょうだい。共通の父親(花粉親)がユズ。
ここまではっきり分かっていたとは!
2.カボスの母親は「クネンボ」。一方、スダチの母親は不明。
クネンボは東南アジア原産、ミカン科の植物で、日本には室町時代に琉球経由で入ってきたもの(Wikipediaより)。断面の写真はダイダイっぽいなぁと思いました。
日本に入ってきてから在来種と混ざって、温州ミカンとか、ハッサクとか、もっとおいしい子孫がたくさんできたので、それ自体を食べることは少なくなってしまったみたいです。
カボス同様、クネンボ(種子親)×ユズ(花粉親)の組み合わせでできた、カボスの兄弟あるいは姉妹が4つ見つかっています。
- 「ジャバラ」和歌山の特産品。"ナリルチン"という成分が花粉症に効くというので有名。
- 「モチユ」(餅柚)高知、四万十川流域の特産品。"ぶしゅかん"と呼ばれていて、赤身魚に絞ると美味しいらしい。
- 「ヘンカミカン」
- 「キズ」(木酢)九州の特産品。
どれも食べたことがないばかりか、生の果実を見たことすらないのが残念です。
3.スダチの直接の母親は不明。
2016年に、日本の柑橘類を、メジャーな温州ミカンなどから、クネンボなど古いものや、ジャバラなど"知る人ぞ知る"といったものまで含めて、相当数を集めて調べた結果が出たのですが、直接の母親(種子親)は見つからなかったみたい。ちょっとがっかり、でも何だかミステリアス。
4.スダチの母親には、「ブンタン」(文旦)や「コウジ」(柑子)が関与している可能性がある。
「スダチの細胞質のDNAはブンタンと共通している」という研究結果(1993年)と、「コウジと共通している」という研究結果(2016年)があります。
いずれにしても、どちらも直接の親というわけではないらしく。人間でいうと、"ミトコンドリア・イブ"が直接の親じゃないのと同じ?
2016年のほうに、コウジ型の細胞質DNAは「タチバナ」ともよく似ているので、スダチ、コウジ、タチバナは、祖先に共通点が多いか、祖先が共通しているのかもしれない的なことが書いてあるみたいなんだけど……よく分かりません。ちょっと難しすぎてお手上げです。一説によるとコウジの花粉親はタチバナだそうで、ますます混乱。
でも、コウジ、タチバナ、ユズ(、ブンタン)などがお互いに受粉し合って、親子になったり兄弟になったり、いろいろしてるうちに、いつの間にかスダチになったっていうことなのかな?
酢橘と名が付いているぐらいだから、土地の人は橘の一種だと思っていたのでしょうか。見た目が似ているとかで。橘も柑子も自分で見たことがないのが残念です。でも、脱線しますが、橘と温州ミカン?マンダリン?が交雑してできたといわれている三重県の「新姫」は、ぱっと見はスダチにそっくり。
ちなみに、スダチにユズを掛け合わせてできた、「阿波すず香」という新種があります。スダチが母親(種子親)、ユズが父親(花粉親)。味・香りは両方の特徴があるそうです。見た目はかなりユズっぽくなっているのに驚きました。
とりとめもない感じになってきましたが、最後にもう一つだけ。江戸時代に書かれた「阿波志」という古文書に出ている、名東郡の特産品にミカン類がたくさん入っていたのでそれをメモしておきます。
ざぼん 郷名ケムス又の名サブム、橙に似て大
香櫞 即ち仏手柑
宜母子 郷名スダチ、柚に似て小、以て酢に代るべし
橙 郷名ダイダイ
橘 郷名カウジ やや小なるもの和名タチバナ、最小にして黄のものを金柑と呼ぶ 越志に所謂金棗、恐らく是(越は支那の国名)
邏柚 郷名ハナユ
(「阿波誌」、「阿波志」より 表記を一部改変して引用)