陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

「カブス」「カブチ」について

1つ前の記事で、江戸時代に書かれた「阿波志」・「阿波誌」の、柑橘類に関する記事を引用しました。

ざぼん 郷名ケムス又の名サブム、橙に似て大

 即ち仏手柑

宜母子 郷名スダチ、柚に似て小、以て酢に代るべし

橙 郷名ダイダイ

橘 郷名カウジ やや小なるもの和名タチバナ、最小にして黄のものを金柑と呼ぶ 越志に所謂金棗、恐らく是(越は支那の国名)

邏柚 郷名ハナユ

(「阿波誌」、「阿波志」の名東郡の項より 表記を一部改変して引用)

よく分からないところが幾つかあります。

まず一番上の「ざぼん」の項。ざぼん=ブンタンですが、郷名「ケムス」とは何でしょう? もしかして「カブス」が訛ったのかな?と思いました。橙に似ているともありますし。ブンタンがダイダイに似ているとは思えませんが、それはさておき。

広辞苑カブスの項には、カブスはダイダイの一種とあります。ダイダイの中には「カイセイトウ」(回青橙)と「シュウトウ」(臭橙)があり、後者がカブスに相当するらしいのです(公益財団法人中央果実協会)。

ところが別の辞書によれば、臭橙(カブチ)=マルブシュカン。

インターネットを見ていると、愛媛の八幡浜では、「われわれのカブスはダイダイとは違う、カブスカブスである」と感じている人もおられるようで、謎は深まるばかり。

そこで、日本方言辞典を見てみました。その「かぶち(臭橙)」の項によれば、次のとおりです。

「かぶち」とは……

1.だいだい(橙)を指す

『かぶち』三重県志摩郡、和歌山県西牟婁郡日高郡

『かぶす』長門、周防。日葡辞書Cabusu 蜜柑、レモンの一種、その果実のなる木

『かぶつ』伊豆八丈島、伊豆賀茂郡、東京都伊豆諸島

『がぶつ・がごつ』伊豆八丈島

『ごぶつ・こーぶつ』長崎県五島

2.ゆず(柚)を指す

『かぼす』大分県一部、宮崎県一部

3.ぶんたん(文旦)を指す

『かぼそ』大阪府一部

4.さんぽうかん(三宝柑)を指す

『かぶす』愛媛県一部

(日本方言辞典上巻より一部改変して引用)

ダイダイ以外に、地域によっては、ユズ、ブンタン、サンポウカンが「カブス」的な名前で呼ばれることがあるようです。

カブスは「柑子」の転訛という説もあります。古くは柑橘類一般を指していたのでしょうか。今の「みかん」という言葉のように。