陽だまり日記

陽だまり日記

大好きな本や映画のことなど

舌切り雀のこと(1)

先週のラジオ「昔話へのご招待」では、「舌切り雀」が紹介されました。久々に聞いてみると、何だか不思議な話のように思いました。

お婆さんが、(理由があったとはいえ)雀の舌をいきなり切ってしまうのはちょっとビックリだし、雀の居所を探すのに、お爺さんが肥を飲むっていうのは過酷すぎるような気がするし、雀は人間に舌を切られたのに、お土産をくれるんだなぁ……なんて、いろいろ考えてしまいました。

インターネットで検索してみると、"雀=お爺さんの愛人説"というのがあって、そうだとすれば少し納得できるような気もしました。

もっといろいろ調べてみると、舌切り雀は、「宇治拾遺物語」(13世紀、鎌倉時代)の「腰折れ雀」が基になっているという説が、かなり広く信じられているようで、kotobankにも記載されていましたし、国会図書館のデジタルコレクションにも見つかりました。

でも、腰折れ雀と舌切り雀は、同じ雀が出てくるにしてもだいぶ違います。腰折れ雀はけがをしていた雀を助けたら恩返しをしてくれたという話で、雀の舌を切るわけではないし、雀を探しに出てとんでもない試練を課されるわけでもありません。

そんなことを考える人は結構いるようで、舌切り雀は腰折れ雀とは別の系統の話だろうとか、腰折れ雀の影響を受けていたとしても、別の要素もあるだろうという説が散見されます。

その代表的なものに、柳田国男氏の「桃太郎の誕生」があります。同書では、青森県津軽で採取された「尾っぱ剪雀」が舌切り雀のより古い形であるとしています。驚いたことに、このお話では、糊を食べた雀の頭を"擂木で"打って、"尾羽を剪って追出した"のは、お婆さんではなくお爺さんで、"臼彫りと菅刈りに"道を尋ねて雀を探すのがお婆さんです。となると、愛人説も否定されてしまいます。お話の冒頭で、お婆さんが、"綺麗な娘子を一人拾ってきた"と言うのにもかかわらず。

別の例は、国会図書館のデジタルコレクションにあった志田義秀著「日本の伝説と童話」(1941)。腰折れ雀と舌切り雀の中間的なお話として、鎌倉後期の「風葉和歌集」の中の「雀の物語」、後柏原院勾当内侍作と伝える「雀の発心」、同じく 勾当内侍作と伝える「雀の松原」を挙げています。が、私にはこれらも雀が出てくる以外どういう共通点があるのかよく分かりませんでした。

前述の「桃太郎の誕生」によれば、舌切り雀は外国人に珍しがられたそうですが、さもありなんと思うような不思議なお話の、ルーツはいまだ諸説ありのようです。

ところで、国会図書館のデジタルコレクションを見ていたら、腰折れ雀と舌切り雀が混ざったようなお話もありました。「白鳥町史」(1985)という香川県の郷土誌で紹介されている「雀の恩返し」という口承文芸で、だいたい次のような内容です。

ある朝雀がうるさく鳴くので見ると、雀がヒサゴの種を持ってきてくれた。それを蒔いてなったヒョウタンを、お婆さんが、舌切り雀のところに持っていった。糊をなめたので舌を切られて飛ばされて淋しかった雀に同情したお爺さんが、何かつけて治してやって飛ばせた。すると、舌切り雀は治してもらって嬉しかったんだろう、ヒサゴの種を持ってきてくれて、それを蒔いたらヒョウタンができて、中からいいものがたくさん出てきた。……

舌切り雀の恩返しに、"治してやった"というはっきりとした理由がついているのが興味深いですし、ヒサゴの種が2回出てくるのもとても面白いです。もともとあった腰折れ雀のお話の中に、舌切り雀が友情出演したような感じで、何となく、やはり両者は別物ではないかという感じがしました。