陽だまり日記

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大好きな本や映画のことなど

舌切り雀のこと(2)

「舌切り雀」を久しぶりにラジオ「昔話へのご招待」(2020.8.16)で聞いて、何だか不思議なお話だなぁと思いました。率直に言えば、何となく辻褄が合っていないような気がして。ちょっとしたこと(?)で一緒に暮らしていた雀の舌を切るとか、探しに出たお爺さんにとんでもない試練が課されるとか、人間にひどい目にあわされた雀が財宝をくれるとか。いくら昔話は極端が好きといっても極端過ぎるような気がするし、このお話が5大昔話に入っているのはどういうわけかしら……とも思いました。

それでいろいろ検索などしていたところ、前回も書きましたが、雀=若い女性という解釈があるそうです。なるほど、そうであれば筋が通るような。この説は作家の松谷みよ子さんなどが主張されているのだとか。

他には次のような解釈もあります。柳田国男さんの「桃太郎の誕生」に書かれているのですが、それによれば、舌切り雀は、もともとは「桃太郎」「一寸法師」などのように、神の子が人間のもとにやってきて鬼退治をするようなお話だったのが、時代とともに変化して今のような形になったということです。ちょっとビックリするような説ですが、その根拠として、「尾っぱ切り雀」、「雀の仇討ち」など多数を挙げています。

舌切り雀のルーツは、13世紀鎌倉時代宇治拾遺物語に載っている「腰折れ雀」が広く知られていて、上の柳田氏の説はそれに比べると少数派のようですが、とてもロマンがあって魅力的だと思いました。

尾っぱ切り雀は、お婆さんが川上から流れてきた雀を拾って大事に育てていたけれど、糊をなめてしまったのでお爺さんが尾羽を切って追い出してしまって、あとは舌切り雀と同じ話。川上から流れてきたのが桃太郎的というわけです。

雀の仇討ちは、山姥が雀の卵と親雀を食べてしまって、一羽だけ助かった子雀が仲間と仇討ちをする話。仇討ちの部分は猿蟹合戦の後半とよく似たお話です。卵から生まれた小さな子が、仇討ちという英雄的行為を成し遂げるところが桃太郎的と考えられるそうです。

また、舌切り雀や尾っぱ切り雀で、雀がひどい目にあわされる理由も考察されていて、舌切り雀が桃太郎的なお話であるとすれば、桃太郎に黍団子が付随しているように、雀に糊が付随していて、そこから変化していったのだろうということです。

確かに(?)、雀の仇討ちでは、子雀が米の団子をこしらえて仲間を募る場面があります。これが、糊を食べてお仕置きされるように変化したとすれば相当大きな変化のような気もしますが、逆に考えると、そんな変化が起きるほど、元は古いお話だったのかもしれません。

雀の仇討ちに関しては、最近、これを海外(北東アジア、東南アジア、シベリア、アメリカ北西岸インディアン)の類話と比較して、この昔話のテーマは"悪天候からの回復"だとする説があるようです。面白かったのは、紹介されている類話の中に、ミャンマーで語られていたという、桃太郎に似たお話があったこと(出典)。

ラジオ「昔話へのご招待」でも、桃太郎や猿蟹合戦の類話はいろいろ紹介されていて、桃太郎のバリエーションの中に、猿蟹合戦の後半によく似たものがあるというのは聞いたことがあります。それから、猿蟹合戦の類話として挙げられたグリム童話の「コルベスさん」については、どういうわけでコルベスさんがひどい目にあうのかお話の中で語られないので、グリム自身も大変興味を持っていたようだという小澤先生の解説が印象的でした。私も聞いていて不思議だなぁと思っていたのですが、こんな難しい謎を説明するような研究もあるのですね。ちょっと感動してしまいました。