昔話「脂とり」のこと
「あぶらとり」について、5年くらい前にここに書きましたが、肝心の昔話「脂とり」の情報が抜けていたのでもう一度まとめます。
この昔話は日本全国各地で伝承されてきたそうで、検索すると幾つか出てきます。「まんが日本昔ばなし」にもなったようですね。
要約すると、ある怠け者の男が、働かないでおいしいものを食べたいという願望を持っていて、それが人里離れた不思議な家で叶えられる。ところが、その家の秘密の部屋では人が吊されて脂をしぼられていて、男はびっくりして逃げ出すというストーリー。
私はポッドキャスト「小澤俊夫 昔話へのご招待」(2010年8月20日放送回)で聞いたのが最初です。出典は福音館書店「日本の昔話 2」。そちらを参照すると、同書に採録・再話されたものは、もともと山形県東根市に伝わっていたお話ということでした。
人が吊されて下から火で炙られ、脂をとられているという恐ろしい場面がなかなかのインパクトで、昔話にもこんな香港かどこかのホラー映画みたいなのがあるのかと驚きました。
また、それを見た男が慌てて逃げ出すシーン(↓)は、何となく韓国ドラマみたいだなぁと感じました。
男はもう仰天して逃げ出すわけです。ところが、見たら、周りが全部塀で囲まれていて、どこにも出口はない。松の木があったもんで、その松の木によじ登って越えるわけね。
ところが、越えてみたら、塀の向こうは何とカラタチの木の野原だったと。とげとげしてるんだね。とげとげしてるでしょう。それでも、もう逃げなきゃしょうがないから、カラタチのやぶの中をだーっと走ってった。もう体中傷だらけになった。
カラタチの花の畑をやっと抜けたら、今度はイバラの畑があって、またそれがどこまでも続いて、1里も続いてた。それを夢中で逃げてるうちに体中全部傷だらけになって、それで最後に、行ったら、今度は川があった。
気のせいかしらと思っていたら、小澤先生が、これは外国から来たお話かもしれないと解説されたので、なんと、やっぱり!(嬉)と、我が灰色の脳細胞に珍しく刻まれた次第。
5年くらい前、「国際昔話話形カタログ」の新しいのが出版されて思い切って買ってみたとき、このことを思い出して探してみました。
すると、話形956「強盗たちの家の熱い部屋」に、人間の脂肪が溶かされている場面が含まれていました。
ある(太った)男(商人、兵隊、船乗り、警官)がたまたま強盗の家に入る。(男は熱い部屋に閉じ込められ、そこでは人間の脂肪が溶かされている。)そこにはたくさんの死体がぶら下がっている。強盗達が家に帰ってくると、男は彼らの首を次々と切り落とし、彼らの財宝を取る。(小澤昔ばなし研究所「国際昔話話形カタログ」より)
類話の分布を見ると、ちゃんと日本が入っていました。そして洋の東西を問わず世界的に広く分布していました。小澤先生によれば日本の中にもたくさんあるそうです。
フィンランド、ラトヴィア、ラップ、デンマーク、スコットランド、イギリス、アイルランド、オランダ、フリジア、フラマン、ドイツ、スイス、ラディン、イタリア、サルデーニャ、マルタ、スロバキア、セルビア、ブルガリア、ギリシャ、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、トルコ、ユダヤ、ジプシー、クルド、ウズベク、シリア、パレスチナ、イラク、カタール、インド、日本、中国、エジプト、アルジェリア、モロッコ(引用元:同上)
百科事典によれば、日本の「今昔物語集」や「打聞集」、中国の「冥報記」に類話が記録されていて、歴史的にも古くからあるお話ということでした。